3.相続人が、限定承認又は放棄をした後でも、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを財産目録中に記載しなかつたとき。但し、その相続人が放棄をしたことによつて相続人となつた者が承認をした後は、この限りでない。
第922条 相続人は、相続によつて得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、承認をすることができる。
第923条 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
第924条 相続人が限定承認をしようとするときは、第915条第1項の期間内に、財産目録を調製してこれを家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。
第925条 相続人が限定承認をしたときは、その被相続人に対して有した権利義務は、消滅しなかつたものとみなす。
第926条 限定承認者は、その固有財産におけると同一の注意を以て、相続財産の管理を継続しなければならない。
2 第645条、第646条、第650条第1項、第2項及び第918条第2項、第3項の規定は、前項の場合にこれを準用する。
第927条 限定承認者は、限定承認をした後5日以内に、一切の相続債権者及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。但し、その期間は、2箇月を下ることができない。
2 第79条第2項及び第3項の規定は、前項の場合にこれを準用する。
第928条 限定承認者は、前条第1項の期間の満了前には、相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。
第929条 第927条第1項の期間が満了した後は、限定承認者は、相続財産を以て、その期間内に申し出た債権者その他知れた債権者に、各々その債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。但し、優先権を有する債権者の権利を害することができない。
第930条 限定承認者は、弁済期に至らない債権でも、前条の規定によつてこれを弁済しなければならない。
2 条件附の債権又は存続期間の不確定な債権は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従つて、これを弁済しなければならない。
第931条 限定承認者は、前2条の規定によつて各債権者に弁済をした後でなければ、受遺者に弁済をすることができない。
第932条 前3条の規定に従つて弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者は、これを競売に付しなければならない。但し、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して、その競売を止めることができる。
第933条 相続債権者及び受遺者は、自己の費用で、相続財産の競売又は鑑定に参加することができる。この場合には、第260条第2項の規定を準用する。
第934条 限定承認者が、第927条に定める公告若しくは催告をすることを怠り、又は同条第1項の期間内にある債権者若しくは受遺者に弁済をしたことによつて他の債権者若しくは受遺者に弁済をすることができなくなつたときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。第929条乃至第931条の規定に違反して弁済をしたときも、同様である。
2 前項の規定は、情を知つて不当に弁済を受けた債権者又は受遺者に対する他の債権者又は受遺者の求償を妨げない。
3 第724条の規定は、前2項の場合にも、これを適用する。
第935条 第927条第1項の期間内に申し出なかつた債権者及び受遺者で限定承認者に知れなかつたものは、残余財産についてのみその権利を行うことができる。但し、相続財産について特別担保を有する者は、この限りでない。
第936条 相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 管理人は、相続人のために、これに代わつて、相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をする。
3 第926条乃至前条の規定は、管理人にこれを準用する。但し、第927条第1項に定める公告をする期間は、管理人の選任があつた後10日以内とする。
第937条 限定承認をした共同相続人の一人又は数人について第921条第1号又は第3号に掲げる事由があるときは、相続債権者は、相続財産を以て弁済を受けることができなかつた債権額について、その者に対し、その相続分に応じて権利を行うことができる。
第938条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
第939条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初から相続人とならなかつたものとみなす。
第940条 相続の放棄をした者は、その放棄によつて相続人となつた者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけると同一の注意を以て、その財産の管理を継続しなければならない。
2 第645条、第646条、第650条第1項、第2項及び第918条第2項、第3項の規定は、前項の場合にこれを準用する。
第941条 相続債権者又は受遺者は、相続開始の時から3箇月以内に、相続人の財産の中から相続財産を分離することを家庭裁判所に請求することができる。相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、その期間の満了後でも、同様である。
2 家庭裁判所が前項の請求によつて財務の分離を命じたときは、その請求をした者は、5日以内に、他の相続債権者及び受遺者に対し、財産分離の命令があつたこと及び一定の期間内に配当加入の申出をすべき旨を公告しなければならない。但し、その期間は、2箇月を下ることができない。
第942条 財産分離の請求をした者及び前条第2項の規定によつて配当加入の申出をした者は、相続財産について、相続人の債権者に先だつて弁済を受ける。
第943条 財産分離の請求があつたときは、家庭裁判所は、相続財産の管理について必要な処分を命ずることができる。
2 家庭裁判所が管理人を選任した場合には、第27条乃至第29条の規定を準用する。
第944条 相続人は、単純承認をした後でも、財産分離の請求があつたときは、以後、その固有財産におけると同一の注意を以て、相続財産の管理をしなければならない。但し、家庭裁判所が管理人を選任したときは、この限りでない。
2 第645条乃至第647条及び第650条第1項、第2項の規定は、前項の場合にこれを準用する。
第945条 財産の分離は、不動産については、その登記をしなければ、これを第三者に対抗することができない。
第946条 第304条の規定は、財産分離の場合にこれを準用する。
第947条 相続人は、第941条第1項及び第2項の期間の満了前には、相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。
2 財産分離の請求があつたときは、相続人は、第941条第2項の期間の満了後に、相続財産を以て、財産分離の請求又は配当加入の申出をした債権者及び受遺者に、各々その債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。但し、優先権を有する債権者の権利を害することができない。
3 第930条乃至第934条の規定は、前項の場合にこれを準用する。
第948条 財産分離の請求をした者及び配当加入の申出をした者は、相続財産を以て全部の弁済を受けることができなかつた場合に限り、相続人の固有財産についてその権利を行うことができる。この場合には、相続人の債権者は、その者に先だつて弁済を受けることができる。
第949条 相続人は、その固有財産を以て相続債権者若しくは受遺者に弁済をし、又はこれに相当の担保を供して、財産分離の請求を防止し、又はその効力を消滅させることができる。但し、相続人の債権者が、これによつて損害を受けるべきことを証明して、異議を述べたときは、この限りでない。
第950条 相続人が限定承認をすることができる間又は相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、その債権者は、家庭裁判所に対して財産分離の請求をすることができる。
2 第304条、第925条、第927条乃至第934条、第943条乃至第945条及び第948条の規定は、前項の場合にこれを準用する。但し、第927条に定める公告及び催告は、財産分離の請求をした債権者がこれをしなければならない。
第951条 相続人のあることが明かでないときは、相続財産は、これを法人とする。
第952条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によつて、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 家庭裁判所は、遅滞なく管理人の選任を公告しなければならない。
第953条 第27条乃至第29条の規定は、相続財産の管理人にこれを準用する。
第954条 管理人は、相続債権者又は受遺者の請求があるときは、これに相続財産の状況を報告しなければならない。
第955条 相続人のあることが明かになつたときは、法人は、存立しなかつたものとみなす。但し、管理人がその権限内でした行為の効力を妨げない。
第956条 管理人の代理権は、相続人が相続の承認をした時に消滅する。
2 前項の場合には、管理人は、遅滞なく相続人に対して管理の計算をしなければならない。
第957条 第952条第2項に定める公告があつた後2箇月以内に相続人のあることが明かにならなかつたときは、管理人は、遅滞なく一切の相続債権者及び受遺者に対し、一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。但し、その期間は、2箇月を下ることができない。
2 第79条第2項、第3項及び第928条乃至第935条の規定は、前項の場合にこれを準用する。但し、第932条但書の規定は、この限りでない。
第958条 前条第1項の期間の満了後、なお、相続人のあることが明かでないときは、家庭裁判所は、管理人又は検察官の請求によつて、相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。但し、その期間は、6箇月を下ることができない。
第958条の2 前条の期間内に相続人である権利を主張する者がないときは、相続人並びに管理人に知れなかつた相続債権者及び受遺者は、その権利を行うことができない。
第958条の3 前条の場合において相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があつた者の請求によつて、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第958条の期間の満了後3箇月以内に、これをしなければならない。
第959条 前条の規定によつて処分されなかつた相続財産は、国庫に帰属する。この場合には、第956条第2項の規定を準用する。
第960条 遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、これをすることができない。
第961条 満15歳に達した者は、遺言をすることができる。
第962条 第4条、第9条、第12条及び第16条の規定は、遺言には、これを適用しない。
第963条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
第964条 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。但し、遺留分に関する規定に違反することができない。
第965条 第886条及び第891条の規定は、受遺者にこれを準用する。
第966条 被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は、無効とする。
2 前項の規定は、直系血族、配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合には、これを適用しない。
第967条 遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によつてこれをしなければならない。但し、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。
第968条 自筆証書によつて遺言をするには、遺言者が、その全文、日附及び氏名を自書し、これに印をおさなければならない。
2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を附記して特にこれに署名し、且つ、その変更の場所に印をおさなければ、その効力がない。
第969条 公正証書によつて遺言をするには、次の方式に従わなければならない。
1.証人2人以上の立会いがあること。
2.遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
3.公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
4.遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を附記して、署名に代えることができる。
5.公証人が、その証書は前4号に掲げる方式に従つて作つたものである旨を附記して、これに署名し、印をおすこと。
第969条の2 口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第2号の口授に代えなければならない。この場合における同条第3号の規定の適用については、同号中「口述」とあるのは、「通訳人の通訳による申述」又は「自書」とする。
2 前条の遺言者又は証人が耳が聞こえない者である場合には、公証人は、同条第3号に規定する筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者又は証人に伝えて、同号の読み聞かせに代えることができる。
3 公証人は、前2項に定める方式に従つて公正証書を作つたときは、その旨をその証書に附記しなければならない。
第970条 秘密証書によつて遺言をするには、左の方式に従わなければならない。
1.遺言者が、その証書に署名し、印をおすこと。
2.遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章を以てこれに封印すること。
3.遺言者が、公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
4.公証人が、その証書を提出した日附及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印をおすこと。
2 第968条第2項の規定は、秘密証書による遺言にこれを準用する。
第971条 秘密証書による遺言は、前条に定める方式に欠けるものがあつても、第968条の方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する。
第972条 口がきけない者が秘密証書によつて遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、その証書は自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を通訳人の通訳により申述し、又は封紙に自書して、第970条第1項第3号の申述に代えなければならない。
2 前項の場合において、遺言者が通訳人の通訳により申述したときは、公証人は、その旨を封紙に記載しなければならない。
3 第1項の場合において、遺言者が封紙に自書したときは、公証人は、その旨を封紙に記載して、第970条第1項第4号に規定する申述の記載に代えなければならない。
第973条 成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師2人以上の立会いがなければならない。
2 遺言に立ち会つた医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかつた旨を遺言書に附記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書によつて遺言をする場合には、その封紙に右の記載をし、署名し、印を押さなければならない。
第974条 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
1.未成年者
2.推定相続人、受遺者及びその配偶者並びに直系血族
3.公証人の配偶者、4親等内の親族、書記及び雇人
第975条 遺言は、2人以上の者が同一の証書でこれをすることができない。
第976条 疾病その他の事由によつて死亡の危急に迫つた者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いをもつて、その1人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合には、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2 ロがきけない者が前項の規定によつて遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3 第1項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4 前3項の規定によつてした遺言は、遺言の日から20日以内に、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力がない。
5 家庭裁判所は、遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
第977条 伝染病のため行政処分によつて交通を断たれた場所に在る者は、警察官1人及び証人1人以上の立会を以て遺言書を作ることができる。
第978条 船舶中に在る者は、船長又は事務員1人及び証人2人以上の立合を以て遺言書を作ることができる。
第979条 船舶遭難の場合において、船舶中に在つて死亡の危急に迫つた者は、証人2人以上の立会を以て口頭で遺言をすることができる。
2 口がきけない者が前項の規定によつて遺言をする場合には、遺言者は、通訳人の通訳によりこれをしなければならない。
前2項の規定に従つてした遺言は、証人が、その趣旨を筆記して、これに署名し、印を押し、かつ、証人の1人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力がない。
4 第976条第5項の規定は、前項の場合について準用する。
第980条 第977条及び第978条の場合には、遺言者、筆者、立会人及び証人は、各自遺言書に署名し、印をおさなければならない。
第981条 第977条乃至第979条の場合において、署名又は印をおすことのできない者があるときは、立会人又は証人は、その事由を附記しなければならない。
第982条 第968条第2項及び第973条乃至第975条の規定は、第976条乃至前条の規定による遺言にこれを準用する。
第983条 第976条乃至前条の規定によつてした遺言は、遺言者が普通の方式によつて遺言をすることができるようになつた時から6箇月間生存するときは、その効力がない。
第984条 日本の領事の駐在する地に在る日本人が公正証書又は秘密証書によつて遺言をしようとするときは、公証人の職務は、領事がこれを行う。
第985条 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
2 遺言に停止条件を附した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。
第986条 受遺者は、遺言者の死亡後、何時でも、遺贈の放棄をすることができる。
2 遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼつてその効力を生ずる。
第987条 遺贈義務者その他の利害関係人は、相当の期間を定め、その期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨を受遺者に催告することができる。若し、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなす。
第988条 受遺者が遺贈の承認又は放棄をしないで死亡したときは、その相続人は、自己の相続権の範囲内で、承認又は放棄をすることができる。但し、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
第989条 遺贈の承認及び放棄は、これを取り消すことができない。
2 第919条第2項の規定は、遺贈の承認及び放棄にこれを準用する。
第990条 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。
第991条 受遺者は、遺贈が弁済期に至らない間は、遺贈義務者に対して相当の担保を請求することができる。停止条件附の遺贈についてその条件の成否が未定である間も、同様である。
第992条 受遺者は、遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得する。但し、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
第993条 遺贈義務者が遺言の死亡後に遺贈の目的物について費用を出したときは、第299条の規定を準用する。
2 果実を収取するために出した通常の必要費は、果実の価格を超えない限度で、その償還を請求することができる。
第994条 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
2 停止条件附の遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様である。但し、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
第995条 遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によつてその効力がなくなつたときは、受遺者が受けるべきであつたものは、相続人に帰属する。但し、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
第996条 遺贈は、その目的たる権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかつたときは、その効力を生じない。但し、その権利が相続財産に属すると属しないとにかかわらず、これを遺贈の目的としたものと認むべきときは、この限りでない。
第997条 相続財産に属しない権利を目的とする遺贈が前条但書の規定によつて有効であるときは、遺贈義務者は、その権利を取得してこれを受遺者に移転する義務を負う。若し、これを取得することができないか、又はこれを取得するについて過分の費用を要するときは、その価額を弁償しなければならない。但し、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
第998条 不特定物を遺贈の目的とした場合において、受遺者が追奪を受けたときは、遺贈義務者は、これに対して、売主と同じく、担保の責に任ずる。
2 前項の場合において、物に瑕疵があつたときは、遺贈義務者は、瑕疵のない物を以てこれに代えなければならない。
第999条 遺言者が、遺贈の目的物の滅失若しくは変造又はその占有の喪失によつて第三者に対して借金を請求する権利を有するときは、その権利を遺贈の目的としたものと推定する。
2 遺贈の目的物が、他の物と附合し、又は混和した場合において、遺言者が第243条乃至第245条の規定によつて合成物又は混和物の単独所有者又は共有者となつたときは、その全部の所有権又は共有権を遺贈の目的としたものと推定する。
第1000条 遺贈の目的たる物又は権利が遺言者の死亡の時において第三者の権利の目的であるときは、受遺者は、遺贈義務者に対しその権利を消滅させるべき旨を請求することができない。但し、遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
第1001条 債権を遺贈の目的とした場合において、遺言者が弁済を受け、且つ、その受け取つた物が、なお、相続財産中に在るときは、その物を遺贈の目的としたものと推定する。
2 金銭を目的とする債権については、相続財産中にその債権額に相当する金銭がないときでも、その金額を遺贈の目的としたものと推定する。
第1002条 負担附遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責に任ずる。
2 受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者が、自ら受遺者となることができる。但し、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
第1003条 負担附遺贈の目的の価額が相続の限定承認又は遺留分回復の訴によつて減少したときは、受遺者は、その減少の割合に応じてその負担した義務を免かれる。但し、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
第1004条 遺言書の保管者は、相続の開始を知つた後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様である。
2 前項の規定は、公正証書による遺言には、これを適用しない。
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会を以てしなければ、これを開封することができない。
第1005条 前条の規定によつて遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、5万円以下の過料に処せられる。
第1006条 遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
2 遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。
3 遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。
第1007条 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
第1008条 相続人その他の利害関係人は、相当の期間を定め、その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨を遺言執行者に催告することができる。若し、遺言執行者が、その期間内に、相続人に対して確答をしないときは、就職を承諾したものとみなす。
第1009条 未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。
第1010条 遺言執行者が、ないとき、又はなくなつたときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によつて、これを選任することができる。
第1011条 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を調製して、これを相続人に交付しなければならない。
2 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会を以て財産目録を調製し、又は公証人にこれを調製させなければならない。
第1012条 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 第644条乃至第647条及び第650条の規定は、遺言執行者にこれを準用する。
第1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
第1014条 前3条の規定は、遺言が特定財産に関する場合には、その財産についてのみこれを適用する。
第1015条 遺言執行者は、これを相続人の代理人とみなす。
第1016条 遺言執行者は、やむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることができない。但し、遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
2 遺言執行者が前項但書の規定によつて第三者にその任務を行わせる場合には、相続人に対して、第105条に定める責任を負う。
第1017条 数人の遺言執行者がある場合には、その任務の執行は、過半数でこれを決する。但し、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
2 各遺言執行者は、前項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。
第1018条 家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によつて遺言執行者の報酬を定めることができる。但し、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。
2 遺言執行者が報酬を受けるべき場合には、第648条第2項及び第3項の規定を準用する。
第1019条 遺言執行者がその任務を怠つたときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
2 遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
第1020条 第654条及び第655条の規定は、遺言執行者の任務が終了した場合にこれを準用する。
第1021条 遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。但し、これによつて遺留分を減ずるこどができない。
第1022条 遺言者は、何時でも、遺言の方式に従つて、その遺言の全部又は一部を取り消すことができる。
第1023条 前の遺言と後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を取り消したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言と遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合にこれを準用する。
第1024条 遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を取り消したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様である。
第1025条 前3条の規定によつて取り消された遺言は、その取消の行為が、取り消され、又は効力を生じなくなるに至つたときでも、その効力を回復しない。但し、その行為が詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。
第1026条 遺言者は、その遺言の取消権を放棄することができない。
第1027条 負担附遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行を催告し、若し、その期間内に履行がないときは、遺言の取消を家庭裁判所に請求することができる。
第1028条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、左の額を受ける。
1.直系尊属のみが相続人であるときは、被相続人の財産の3分の1
2.その他の場合には、被相続人の財産の2分の1
第1029条 遺留分は、被相続人が相続関始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して、これを算定する。
2 条件附の権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選定した鑑定人の評価に従つて、その価格を定める。
第1030条 贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によつてその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知つて贈与をしたときは、1年前にしたものでも、同様である。
第1031条 遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するに必要な限度で、遺贈及び前条に掲げる贈与の減殺を請求することができる。
第1032条 条件附の権利又は存続期間の不確定な権利を贈与又は遺贈の目的とした場合において、その贈与又は遺贈の一部を減殺すべきときは、遺留分権利者は、第1029条第2項の規定によつて定めた価格に従い、直ちにその残部の価額を受贈者又は受遺者に給付しなければならない。
第1033条 贈与は、遺贈を減殺した後でなければ、これを減殺することができない。
第1034条 遺贈は、その目的の価額の割合に応じてこれを減殺する。但し、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
第1035条 贈与の減殺は、後の贈与から始め、順次に前の贈与に及ぶ。
第1036条 受贈者は、その返還すべき財産の外、なお、減殺の請求があつた日以後の果実を返還しなければならない。
第1037条 滅殺を受けるべき受贈者の無資力によつて生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。
第1038条 負担附贈与は、その目的の価額の中から負担の価額を控除したものについて、その減殺を請求することができる。
第1039条 不相当な対価を以てした有価行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知つてしたものに限り、これを贈与とみなす。この場合において、遺留分権利者がその減殺を請求するときは、その対価を償還しなければならない。
第1040条 減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。但し、譲受人が譲渡の当時遺留分権利者に損害を加えることを知つたときは、遺留分権利者は、これに対しても減殺を請求することができる。
2 前項の規定は、受贈者が贈与の目的の上に権利を設定した場合にこれを準用する。
第1041条 受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免かれることができる。
2 前項の規定は、前条第1項但書の場合にこれを準用する。
第1042条 減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があつたことを知つた時から、1年間これを行わないときは、時効によつて消滅する。相続の開始の時から10年を経過したときも、同様である。
第1043条 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2 共同相続人の1人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ばさない。
第1044条 第887条第2項、第3項、第900条、第901条、第903条及び第904条の規定は、遺留分にこれを準用する。